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第七章 封印された記録

Author: 佐薙真琴
last update Last Updated: 2025-12-03 08:02:33

 翌朝、アキラは目覚めても、すぐには起き上がれなかった。

 夢を見ていた。誰かの声が聞こえる夢を。優しい女性の声。その声が何を言っているのか、思い出せない。でも、その声を聞くと、胸が締め付けられるような気がした。

 アキラは起き上がり、窓を開けた。都市の朝だ。無数の人々が、透明な交通路を行き交っている。永遠を生きる者たちの、終わりのない日常。

 彼は身支度を整え、事務所を出た。向かう先は、保存庫の最深部。

 永久保存庫は、都市の地下、かつて地表と呼ばれた場所のさらに下にある。量子記憶システムによって、人類が記録してきたすべての物語が保管されている場所だ。

 終焉士たちが記録した死者の物語。数百万の人生がここに眠っている。

 アキラは特別な許可証を使い、一般には公開されていない区画に入った。そこには、終焉士自身の家族や、終焉士になる前に失った人々の記録が保管されている。

 彼は検索端末の前に座り、ある名前を入力した。

「アヤ・サトウ」

 画面に、一つのファイルが表示された。記録日時は、501年前。記録者は「終焉士カズキ」とあった。

 カズキ。それは、アキラの師匠の名前だった。

 アキラは震える手で、ファイルを開いた。

 画面に、一人の女性の顔が映し出された。

 柔らかな笑顔。温かな眼差し。黒い髪。優しい声。

 アキラは、その顔を知っていた。でも、どこで会ったのか、思い出せなかった。

 いや、思い出したくなかった。

 記録が始まった。

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